■半年分の予約が10分で埋まる「ミルフォードトラック」とは?
ニュージーランドといえば、スキーやトレッキングといったアクティビティが魅力の国ですよね。皆さんはトレッキングルートの「ミルフォードトラック」って、聞いたことありますか?
筆者は約10年前に新婚旅行の候補として夫から提案され初めて知ったのですが、「ミルフォードトラック」は、“世界一美しい散歩道”と呼ばれる世界遺産に登録されたトレイルです。道中は絵葉書のような絶景が延々と続き、入山制限がされているため人が少なく、平坦な道が多いので山に慣れていなくても大丈夫、と記憶していました。
結局新婚旅行は別の場所になり心の片隅でずっと気になっていた「ミルフォードトラック」に、10年越しで行けるタイミングを昨年11月に掴みました。トレイルの魅力や行程、準備した荷物などを含めて全4回に渡りレポートしたいと思います。
なお、今年の入山期間は2025年11月~2026年4月末となっており、ガイドなしの個人ツアーの山小屋のオンライン予約は 2025年5月28日(水) に開始される予定です。クリック合戦の末、約10分で半年分の予約が埋まるそうなので、気になる方は今からスケジュールしておくことをおすすめします。
■「ミルフォードトラック」を歩く2つの方法
「ミルフォードトラック」は、ニュージーランド南部のフィヨルドランド国立公園の中にある約54kmのトレッキングコースです。150年以上の歴史があり世界遺産に登録されていて、貴重な自然環境を保護するため1日に入山できる人数は約90名と制限されています。
コースの途中には魅力的なポイントが多数あり、氷河が作り出した深い谷底から見る景色や、峠越えでの壮大な山々の絶景、苔むした森や手つかずの原生林、山の岩肌を流れるいくつもの滝にニュージーランド最大の滝「サザーランドフォールズ」など、挙げきれないほどです。
「ミルフォードトラック」を歩くには2つの方法があります。1つはガイドさんのアテンド付きで専用の山小屋で寝泊まりし、全ての食事、寝具が含まれる団体ツアーです。もう1つは、寝袋や食料などを持参し、団体ツアーとは別の専用の山小屋で寝泊まりする個人ツアーです。個人ツアーは、3泊分の決められた山小屋の予約が自身で必要で、入山可能期間である半年分の予約が約10分で埋まる(!)というからその人気ぶりが伺えます。
今回私たちはガイド付きツアーを申し込みました。個人ツアーと比較すると割高ですが、ガイドさんがいる安心感と荷物が軽量で食事が豪華という大きなメリットに惹かれました。
■ガイド付きツアーの全体概要
▶ 1日目 :クイーンズタウンのツアーセンターに各自集合し受付。ミルフォードトラックの出発点までバスと船で移動。初日のトレッキングは約1.6kmですぐにロッジに到着。
歩行時間:30分
▶ 2日目 :約16kmの行程。小さなアップダウンはあるものの標高差はほぼなし。透き通った川沿いのブナの原生林がメイン。
歩行時間:6~7時間
▶ 3日目 :約15kmの行程で標高差約700mの峠越えがある。時間に余裕があればゴールのロッジに荷物を置いて、ニュージーランド最大の滝「サザーランドフォールズ」に行くことが出来る(※必見)。
歩行時間:7~8時間(峠越え)+1.5時間(滝)
▶ 4日目 :約21kmの行程。小さなアップダウンはあるものの標高差はほぼなし。苔むした森を歩く。ミルフォードトラックの終着地点「サンドフライポイント」を目指す。
歩行時間:7~8時間
▶ 5日目 :トレッキングはなし。ミルフォードサウンド(複数の滝が見れる観光地)を巡る約2時間のクルーズツアーに参加し、バスでクイーンズタウンへ。ツアーセンターにて解散。
■ツアーの前日準備:現地で虫よけを購入(推奨)
日本からのアクセスは、まず羽田空港からオークランド空港へ移動し、乗り継ぎでオークランドからクイーンズタウンへ国内線で移動します。クイーンズタウン空港を出るとすぐに山が見えてテンションが上がりました。
現地で購入したいものがありました。それは虫よけスプレーです。ミルフォードトラックには、日本にはいない吸血する小さなハエ「サンドフライ」が生息しており、刺されるとかなり痒いそう。「サンドフライ」対策ができる商品はニュージーランドでしか購入できないとのことで、早速クイーンズタウンのアウトドアショップへ向かいました。
「スモールプラネット」という山好きスタッフが集まっているショップにて、おすすめされた虫よけを購入。ディートフリーで生後12か月の赤ちゃんにも使えるナチュラル志向の「EXTREME Bug Spray」という商品です。結果これが大成功! スプレーしてさえいれば刺されることはないし、ハーブのいい香りで癒されました。帰りにお土産用に大きいサイズを追加購入したほどお気に入りです。
■8時半 いよいよツアーへ出発
私たちはクイーンズタウンに前泊し、トレッキング後は同じホテルに戻ってくるスケジュールにしました。そのため、ホテルにスーツケースや普段着など山に不要な荷物を預けていくことができました。
ツアー初日は、トレッキングウエアに着替えバックパックを背負い、クイーンズタウンの中心地にあるツアーセンターへ向かいます。ガイドさん4名を含む約50名の参加者が集まりました。なんと、運よく日本人ガイドさんがいるじゃありませんか! あまり英語が堪能ではないため、この時の心から安心した気持ち、伝わるでしょうか。
ここからはバスでテ・アナウという船の発着所へ移動し、テ・アナウからグレートワーフというトレイルのスタート地点までクルーズ船で渡ります。
この日はお天気が良かったので船の2階のデッキに上がる人が多数いました。どんな景色が待っているのか、船から見える山々に胸が躍ります。ミルフォードトラックの11月の気候は、最低気温5℃~最高気温20℃のため防寒から日焼け対策まで必要でした。
グレートワーフに到着後、登山靴とトレッキングポールについた汚れを洗います。国立公園の自然を守るために義務付けられています。
■11時 ミルフォードトラックを歩き初日の宿へ
船を降りてすぐのところに、「ミルフォードトラック」の看板がありました。ここは記念撮影しておきたいポイントですね。初日の歩行時間は約30分で、平坦な砂利道を歩いていくと宿泊するロッジ「グレードハウス」に到着します。
ロッジは山小屋というより立派な宿泊施設です。宿の入り口にはウェルカムドリンクとフルーツが用意されていました。名前を告げ、部屋にいったん荷物を置いたら周辺をガイドさんが案内してくれます。
部屋は2段ベッドが2つあるタイプが多く、ツインも申込時に指定が可能です(追加料金あり)。私たちは4名のシェアルームでしたが2名で使わせてくれました。
■11時45分 ロッジ周辺の森を散策
今回日本人の参加者は7名いましたが、これはとても珍しいことのようです。ガイドさんの提案で、初日だけは特別に日本人の方のみをグループにしてロッジ裏の森を散策することになりました。
手つかずのブナの原生林を歩きながら、ガイドさんからミルフォードトラックは氷河が削り出した地形のため、地面が土ではなく岩になっていること、大量の雨と湿気のお陰で苔やシダがよく育ち、それらを土代わりにして岩の上に木が根を張って立っていること、クマやヘビは生息していないことなどを教えてくれました。
■18時 ドキドキのディナータイム
宿に戻りシャワーを浴びてダイニングルームに行ってみると、外国人の皆さんが早々にお酒を飲みながらワイワイと交流していました。宿泊する全てのロッジで別途料金でアルコールを購入することができます。筆者はニュージーランド産のクラフトビールを頼みました。
ダイニングの席は決まっておらず、だいたい7~8人に分かれて自由に座ります。「こんにちは、ここ座ってもいいですか?」とコミュニケーションを取りながら、住んでいる国のことや行ってみたい山などについて会話を楽しみました。
私たちは初日は日本人の方たちと一緒の席に座りました。中には、海外でバックカントリースキーなどを楽しむ77歳(!)の男性とそのお仲間や、勤続35周年の特別休暇で参加したトレラン好きな方、海外の山へ久しぶりに一人旅に来た男性などがいました。
食事内容はなんとコース仕立てで、前菜、メイン、デザートが用意されていました。毎日その日のメイン料理をアンケートで選びます。メインはお魚、お肉、ビーガンメニューで構成されることが多く、日本の山小屋では考えられない豪華すぎるディナーに驚きました。
ディナーの後はガイドさんの自己紹介、翌日歩くコースについての説明や注意事項に続き、ツアー参加者の自己紹介タイムへ。ツアーには、コロンビア、カナダ、ウクライナ、オーストラリア、インド、韓国など世界各国からの参加者がいました。筆者は英語が堪能ではないので、このツアーに参加した理由を話す際にガイドさんに通訳を頼むと快く受けてくれました。
消灯時間は22時で、同時に全ての電源が落とされるので携帯の充電などはそれまでに済ませます。夜中にトイレに行く時のためにもヘッドライトは必携です。朝晩は冷え込むことが多く、湯たんぽの貸出しがあるため暖房が切れた後でも暖かく眠れました。
翌日からいよいよ本格的なトレッキングがスタートします。その模様は連載第2回で詳しくレポートします。